［07］ある日、突然、椎名林檎に敗訴してしまいました………
拝啓。恥めまして、林檎姫さま。
わたくしめは遅ればせながらつい最近『無罪モラトリアム』を聴いてブッとんだ、日の浅い林檎信者でございます。いい年ブッこいたオヤジにてあいすいません。わたくしめのような半端者では身分不相応につき大変恐縮でございますが、手紙なぞしたためさせていただきました。
わたくしめはプログレッシヴ・ロック中心の甚だ自慰的回顧主義なホームページを開設しております。ただ、わたくしめの場合は70年代のプログレにこだわっているわけではありませんで、現在進行中のロックやポップスまでも幅広く傾聴しております。その中でこの度、失礼のこと重々承知の上で、姫様のアルバムに対して筆を執らせていただきました。駄文ではございますが、お目を通して下さいますようお願いする次第です。
どうか姫様にわたくしめの切ない想いが届きますよう祈っております。
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| 『無罪モラトリアム』 |
“無罪モラトリアム”たぁ、笑わせるじゃぁねぇか。オレみてぇな凡人にはイミがわからねぇ。わからなくたっていいんだよぉ。なんかシュールっちゅうのか、来るんだよなぁ、脳髄によぉ。このタイトル、“シーナリンゴ”っちゅう響き、気にはかけていたんだぜぇい。するとどうでぃ、CMのバックに流れているじゃねぇか。いいねぇ……いいぜぇ、イメージピッタリだ。タダ者じゃねぇな、そう感じたんだぜぇ。いいかぁ、感じたんだぜぇ、ビリビリブリブリとよぉ。こうなりゃCD買って聴くしかねぇって、そしたらよぉ、おめぇどうでぇ、ビリビリどころじゃねぇや。いいかい、電気イスに座ったことがあるかい？ それだよ、それ。わからねぇかぁ。ガキのころよぉ、カエルの解剖で腿に電極くっつけてビクンビクンさせたじゃねぇか、あれだよ、あれ。あの感じだよ。ちったぁ、分かってくれたかよぉ。脳味噌までよぉ、ケイレンしてんだよぉ、オレの足んねぇノウミソがよぉ。信じねぇのか、ホントなんだよぉ。
絶叫ヴォイスと爆裂ギターのユニゾンなんだぜぃ。どっちが声でどっちがギターの音だか分からなくなっちまう。クルクル狂っちまうんだ、頭ん中がよぉ。曲の長さだって半端じゃねぇ。一等長げぇのが4分20秒、短けぇヤツは2分53秒ってんだぁ。ダラダラとやらねぇ、一曲入魂たぁこのことでぇぇい。ただな勘違いするなぁい、そこら辺のパンキッシュネエちゃんと違うんでぇ。メロディーが綺麗なんだなぁ〜、とっても。それによぉ、今ドキのチャラ臭せぇ流行歌みてぇに、ワンフレーズだけキメてオイシクしちまう曲なんか一曲だってねぇんでぇい。ちゃぁ〜んと最初っから最後まで良い仕事してんだなぁ、これが。バラードだってよぉ、涙モンなんだぜぇい。この娘のカラダにはよぉ、R&Bの血が流れてんだよなぁ、きっと。だからよぉ、アレンジ変えてホイットニー・ヒューストンが歌ってもおかしくねぇ曲がザクザクしてんだ。宇多田ヒカルとは全然対極のR&Bの表現方法なんだなぁ、オレにはそう感じんだよ。わからなぇかなぁ、悪かったなぁ、どうもうまく言えねぇんだよぉ。
それでもってよぉ、息継ぎが生々しく聞こえてよぉ、イイんだぜぇい。そりゃぁもうたまんねぇぜ。風吹ジュン以来だぜぇ、こんな生々しいのはよぉ。いいぜぇ、風吹ジュン好きだったろ、なぁ。この声聴いちゃぁよぉ、おめぇなんかスグイッちまうぜぇ、ホントによぉ。それによぉ、“石狩挽歌”みてぇな鼻にかかった声もスゴみをきかせた巻き舌も妙なグルーヴ感があってよぉ。オレにとっちゃぁよぉ、究極のヴォイスなんだなぁ。求めていたヴォーカル・スタイルっちゅうか、完璧な完成品なんだよなぁ。まさにお姫様だ。こんな声に待ち焦がれていたんだぜぇい、やっと出会えたんだな、この世紀末によぉ………。
「君が其処に生きているという真実だけで幸福なのです（幸福論）」
ライヴに乗り込んでやるぜぇい。そして初っぱなから涙をオイオイ流し、パブロフの犬の如く涎をダラダラ垂らし、会場を包む野獣のようなドロドロ汗にまみれて興奮するのだ。そして姫のオーラもエキスもフェロモンも全て吸収して、オレの五臓六腑に浸透させてやるのだ。いいかぁ〜〜待ってろよぉぉぉ〜〜。
迷い彷徨える羊たちよぉ、巷に流れぬ稀少品ばかりに理想を追い求めるなぁい！ 俗世間にも目を向けろぉぉい！ 時代は世紀末なのだ！ すなわちこれこそが革新の音楽なのだ！ この声こそが次世紀に向けての預言なのだ！ 啓示なのだ！ ワカッタカァ〜！ わからなきゃ、わかるまで聴きやがれ〜ぇ〜い〜〜〜！！！